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面白いだけの素晴らしさ/奥田英朗『空中ブランコ』

空中ブランコ

空中ブランコ

そう言えば、第132回芥川賞が発表されましたな。今回は90年代から活躍していた東浩紀のお友達・にわかオタクの阿部和重直木賞角田光代となって、芥川賞もさすがに悪口言われるのを避けたんだろうな。

友達に言わせると最近の芥川賞受賞の際のポイントは
1、話題性がある
2、話題性があっても、あんまりしょぼいのは却下
なんだそうで、舞城が何度か候補に挙がっていても、もらえないのはあまりにしょぼいからだそうです。

阿部和重にあげたというのは、よほどあげる人がいなかったんだろう。
でもいいんじゃないでしょうか。アベカズは相対的に見れば悪い作家じゃないし。

しかし、こうして考えると現在の純文学は大衆文学に3歩以上の遅れをとっていることは確かだな。
例えば、今回あげた『空中ブランコ』は第131回直木賞受賞作で、作者の経歴を見ると、元構成作家みたいな、いわゆる野坂昭如先生みたいな人だったようです。

そうして久しぶりに直木賞作家を読んだのだけれど、いや、実に面白かった。特筆すべきはこの小説の後味のよさ。純文学と言うのは、地雷率も高いので、「後味がいい」というのは滅多にない。酷い時には、サンドバックにしようか…という魔が指すこともあるわけで、そういうのを日ごろ読んでいるせいか、余計にこの小説には好感を持ちました。

「あー、面白かった」と言っても、いわゆる3歩歩いたら忘れるハリウッド映画のような内容の無さではなく、ちゃんと残るところがいいです。
個人的には最後の『女流作家』という話がよかったな。
直近なだけあって、また上手くなっている気がしたし。つーか、作中作の小説がどうにも80年代の林真理子の小説に被るところが個人的に面白かったというか…

全体的にはノリも描写も漫画のような話で、故に噴出すシーンはあるんだけど、爆笑というのは言い過ぎかも。それよりもっと、思わず笑ってしまう、くらいの表現がちょうどいい気がします。

で、やっぱりこういう小説が大衆の支持を得て、売れることは大変健全だと思うのですよ。
先日、純文学についてボロクソ書いたけど、別に純文学作家のすべてが悪いわけではなく、いい作品を書く作家もいるわけです。しかし、その数が圧倒的に少数なわけ。

何にしろ、オイラの持論としては「大衆を相手にしない作品は駄目」と思っているので、そういう意味において、この小説は「万人に開かれている」、その辺を歩く兄ちゃんや姉ちゃん、満員電車のリーマンやOL、商店街のおじちゃん、おばちゃんもぜーんぶ相手にしている小説なわけです。
つまり、どんな人にも勧められるわけです。

で、思うに、純文学・大衆文学といった線引きや囲い込みさせて小説を書かせているのは世界中探しても日本しかないわけ。
つまり、オイラはそういう囲いをとっぱらって、純文学作家と大衆文学作家は同じ土俵で闘わせるべきだと常に思っているわけです。
そうしたら、きっと面白いことになるだろうし、純文学作家も少しは自覚的になって「万人向け」な小説を書こうとするんじゃないでしょーか。


<初>奥田英朗空中ブランコ』(単行本)★★★★