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翻訳家・村上春樹のススメ/ティム・オブライエン『世界のすべての七月』

読書

世界のすべての七月

世界のすべての七月

突然ですが、オイラはかつてものすごいハルキストでした。
実際当時書いていた小説はまんまハルキで、かつてはハルキエピゴーネンと呼ばれたこともあったわけだが。
しかし、現在はハルキストをやめています。
いろいろ理由はあるのだけれど、書くと長くなるので割愛しますが…

しかしだな、相も変わらずこの世は春樹ファン大杉猫も杓子も状態で、事実小説を扱うブログとかサイトで春樹ファンじゃない(もしくは春樹に好意的じゃない)管理人を探すことの方が困難なくらいです。いや〜春樹って人気ありますねえ。つーか、ここまでくると権威だな。

まあ、ぶっちゃけ言うとだな、熱烈な春樹ファンの人って基本的に春樹しか読んでいないんで。あの、怒る方がいるかもしれないけど、春樹以外の作家をべらぼうに読んでながら、春樹の熱狂的ファンって少数だから。

さて、しかしながら春樹さん(急に"さん"付けかよ)には、多くのものを享受させて頂いた過去があり、それについては大変、感謝しているわけです。何かと言うと、彼の一連の翻訳のお仕事だったりするわけだが。
その為、現在は作家の村上春樹より、翻訳家・村上春樹といった認識です。

最近の翻訳家としての村上春樹と言えば、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』が一時話題になりましたが。
オイラは野崎訳の『ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)』を読んでいるので、春樹の方は未読だけれども、何でもこの本に<訳者あとがき>がないのは、作者のサリンジャーが春樹訳にえらくご立腹で解説を書かせなかったという経緯もあり、やはり外国人作家が書いている以上日本人の感性と違いがあるはずなのだけれど、村上春樹訳は小説全体諸々が春樹の小説になってしまうことから見ても、必ずしも翻訳家としての村上春樹は優れているとはいいがたい側面もあるのでしょうが、しかし、多くの素晴らしいアメリカ作家を紹介している功績は変えがたいものがあります。

翻訳家・紹介者としての村上春樹は、『翻訳夜話 (文春新書)』という本があるように、どちらが親にあたるのか分からないけれど、今のアメリカ文学パラダイムを支配している柴田(元幸)一派の強力なファミリーの一員なわけです。

柴田ファミリーつーのは、ポール・オースターエリクソンの翻訳で有名な柴田元幸氏の弟子を含めた翻訳家集団を指しているわけですが、柴田氏自身村上春樹とはかねてから懇意の仲で、一説では、村上春樹の翻訳本は実は全部柴田氏の翻訳であるという噂もあります。事実、村上春樹自身が柴田氏の力を借りて翻訳作業は行っているようですし、その為に柴田氏の翻訳は春樹文体になっている、と本人がばらしていたのでこれは本当。
で、しょっちゅう柴田ファミリーと村上春樹が翻訳したい小説がガチンコすることがあり、そういうときは双方譲り合って、どっちの名前で出した方が売れるかとかそういった算段をしてシェアしあっているんだと。

さて、今回読んだ作家はティム・オブライエンというアメリカの作家で、春樹訳です。そもそもティム・オブライエンは『本当の戦争の話をしよう (文春文庫)』の時から、春樹の訳で出版されておりました。

ニュークリア・エイジ (文春文庫)

ニュークリア・エイジ (文春文庫)

で、大好きな、というか衝撃的だった『ニュークリア・エイジ』を経て、春樹があとがきでも触れているようにティム・オブライエンという作家は「とても気になる作家」になったわけで、今のところ、翻訳された小説は全部読んでいます。(つっても少ないけどamazon:ティム オブライエン

で、今回読んだ『世界のすべての七月』(原題:July,July)は個人的には『ニュークリア・エイジ』に劣るけれど、Amazonのレビュアーで好評な通り、過不足なくいい作品だったと思います。
簡単に説明すると、小説の形式は短編連作。1969年度に卒業した大学の同期生達が同窓会で2001年に再会する場面から始まります。そこで、キャラクターたちの簡単な紹介があり、次の章では登場したキャラクターの一人にスポットがあてられ、彼の(あるいは彼女の)半生が描かれるといった内容で、同窓会・半生・同窓会・半生と交互に、同時並行的に小説が進行していく仕組み。

で、やっぱり各々の章はどれも印象的でいいのだけれど、やはり圧巻なのはベトナム戦争をモチーフにした短編で、ティム・オブライエン自身が退役軍人であることからも、その痛切なメッセージは胸をうちます。

その他の短編も非常によくできていたし、また、同窓会の間に人間関係が変わっていくあたりも面白かったなあ。

心臓を貫かれて

心臓を貫かれて

願わくば、村上春樹の小説しか読まないファンが、こうした翻訳本にも手を出し、果ては外国文学全般を読み漁ってくれることを村上春樹自身も期待しているだろうし、そうなってほしいと思います。
これを見たハルキスト諸君は、是非、手を伸ばしてください。
ちなみに春樹訳小説はいろいろと読んできたけど、特にオススメなのはマイケル・ギルモアの『心臓を貫かれて』かなあ。これは読んで損はしないと思います。
<複>ティム・オブライエン『世界のすべての七月』(単行本)★★★★
*1

*1:この記事へのコメント
1. Posted by 千 2005年03月28日 21:39
《心臓を貫かれて》とあったので、思わず読ませていただきました。
この本との出会いは、本屋でタイトルに惹かれて手にとってみると翻訳者が春樹さんだった、という偶然でしたが、読み終わった後、言葉にできないほど強い衝撃を受けました。もっと多くの人に読んでもらいたい小説だと思います。

私は村上春樹さんの小説が好きですが、他の人の小説も読みますよ。国内作家には疎いですが…(;^_^A

2. Posted by sutarin 2005年04月01日 15:19
レス遅くなってすみません。書き込みありがとうございました。

>他の人の小説も読みますよ

あくまで自分の周りに対しての感想なので、すべての人がそうだとは勿論思っていません。ちょっと言葉が足りない表現だったかなと反省しています。
『心臓を貫かれて』がお好きなようで、嬉しいです。当方も本が出る前から気になっていたので、出たときもすぐに読んだのですが、期待通りの本でした。

3. Posted by 千 2005年04月01日 21:50
もっと知られていい本だと思うんですけどね。少しばかり地味な感じになってしまってるのが残念です。

4. Posted by sutarin 2005年04月02日 16:04
日本は世界的にも稀に見る翻訳大国なのに、一部の外国文学しか売れていないのは自分も残念に思っています。
『心臓を貫かれて』はもう少し紹介されていいと思いますね。アメリカという国の姿を知るためにも。