赤名リカ症候群
東京ラブストーリー (1) (Big spirits comics special)
- 作者: 柴門ふみ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1990/04
- メディア: コミック
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80年代末期を振り返る時、必ずや脳裏を横切るもの…。それは小田和正の「ラブストーリーは突然に」のメガヒットと村上春樹の「ノルウェイの森」のメガヒット。
毎週毎週「花キンデータランド」では1位を獲得し続けたこの2作が、多分時期的にはいくらかずれているにも関わらず、どうにもダブルでオイラの脳裏を掠めるのです。
どちらも社会現象を起こした2作ではありますが。
♪あの日、あの時、あの場所で君に会えなかったら、
ぼくらはいつまでも見知らぬ2人のまま
あれがバブル最期の余韻だったのでしょうか。既に「終わりの始まり」は始まっていた時期でしたが。
- 出版社/メーカー: フジテレビジョン
- 発売日: 2001/09/19
- メディア: DVD
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さて、そんなわけで、当時、やはり、というか例に漏れず見ていた「東京ラブストーリー」。その後の再放送でもことごとく見ていてリカの健気っぷりに、すっかり健気キャラが好きになってしまったオイラ。
こういうアクの強いキャラは好き好きはあるのだろうが、一途に思いを寄せるキャラって好きなんだよねえ。かわいいじゃないか。自分はそういうところ微塵も持っていないから余計に。
で、何故か今さら漫画版の柴門ふみの「東京ラブストーリー」を読んだりしてみる。
しかしだな、これ、手に入れるのに非常に苦労をした。
新刊の本屋にも古本屋にもなかった。かつては平積みで見かけたこの漫画をそろえるために何件書店を梯子したか。つーか、オークションで買えばよかったよ…。
それはいいとして、読んでみて舌を巻いた。正直、ドラマの方は今でははっきり覚えていないのだけれど、確実に主題が違うし、あれほど印象的だった赤名リカというキャラクターは脇に引っ込んでいる印象は強いが、若者の青春群像劇としては1級の出来じゃないかと思う。
何よりびっくりしたのは、ストーリーテラーとしての尋常じゃない上手さ。
人間関係だけでここまで話を転がせるテクはすごいなーと感心した次第です。
展開にたるみやよどみが一切ない。常に、事件やエピソードが次から次へとやってきて、どこまでいっても続きが気になるこの仕組み。
何というか、自分には絶対出来ない技だと思うわけです。
で、柴門ふみはおそらくそうした強みを自分でも十分に分かっていらっしゃる。それを最大限に発揮し、その為に叙情的な演出をそぎ落としてでも、話をすすめてしまう。
自分のような自称浪漫派から見ると「ああ、もったいない」と思う部分もあるのだけれど、そうしたあっけなさが逆にらしさでもあるので、仕方がないのだろうが。
あとねー、柴門ふみは絵が達者だね。一見、簡略化されていて単純な絵なんだけれど、これが実に手馴れた上手さというか、省略の美学といった感じで、自分は非常に好ましく思いました。
それで、最後まで読んで気づいたのだけれど、この赤名リカというキャラクターは「風とともに去りぬ」のスカーレット・オハラに似ている。
別に赤名リカのモデルであるというだけでなく、人物相関図も「風とともに去りぬ」に似ているんだよ。
もっと言えばレッド・バトラーのいない「風とともに去りぬ」って感じだ。
だから余計に赤名リカが不運で気の毒だった。ドラマより漫画の方が不器用な感じがいっそう涙をそそった。
気性が激しく、一途な女は幸せになれないのだろうか、と思ったりして…。いんや、幸せにしてあげてほしかったなあ、と思う。
他があまりに丸く収まりすぎたので。それだけがちょっと心残りではあるが、そのせいでいっそう赤名リカというキャラが印象的にはなっているのだけれど。
時代がこういう結末を用意させていたのかもしれないなあ、と思わなくもない。つまり、赤名リカは時代の象徴ではないのか、ということだ。
今よりもっと日本が幸せだったあの頃を純真に映し出しているように見えなくもない。