侵蝕プラトニック・伝染コンプレックス/きづきあきら
- 作者: きづきあきら,サトウナンキ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2009/12/26
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- 作者: きづきあきら,サトウナンキ
- 出版社/メーカー: 白泉社
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しかし、これは肌にあわなくて1巻でやめてしまった。
その後、この2冊の短編集を読んでみた。
そもそもこの作家を手に取ったのは「いかにも痛そうな(悪い意味で)内容の作品描いているなあ」という冷やかしからだった。
ところが、だ。
『伝染コンプレックス』で見事にやられた。
『侵蝕プラトニック』もよかった。
おそらく今、連載されている『うそつきパラドクス』『セックスなんか興味ない』もよいと思う。
前者はポスト二宮ひかるとして、後者はポスト山本直樹、榎本ナリコ、朔ユキ蔵という一連の流れにおいて、十分評価に値しうる作品群だろう。
(それにしても『うそつきパラドクス』というタイトルは相対性理論の曲名みたいなタイトルだな)
そもそも、この作家には「社会の鏡になろう」という気負いがない。
自分たちの考える範囲で、考えうるキャラクターたちの生き様を、ただ淡々と描くだけなのだ。
だから重いテーマを背負っていても、嘘にならない。
要するに、「作家は作品とだけ向き合う」という姿勢を徹底しているからこそ、彼らは感動的なのだ。
- 作者: きづきあきら
- 出版社/メーカー: ワニブックス
- 発売日: 2006/07
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『氷が溶けて血に変わるまで』では自宅にいられなくなった女子高生がカラオケボックスに連日宿泊し、いつも一人でいる彼女に気づいた店員が声をかける。すると彼女は「おばけがでるから家にいたくない」という。おばけとは実兄のことだった。実兄から性的いたずらをされた彼女は兄におばけがのりうつっているというのだ。そこで店員の青年は彼女の携帯に自分の番号を登録し、魔法の呪文だから使って、と差し出す。
その他、父親から性的虐待を受けている双子の幼い姉妹が自殺の死に場所を求めてさまよう話、幼い頃の遊び半分の兄とのセックスが忘れられない妹、弟に真剣に恋している姉の話、行き場のない近親相姦を繰り返す兄妹など、この作品集には近親相姦ネタが多いが、そのどれもが透き通る透明性を誇っている。
透明性とは前述したとおり、社会云々といったうざったいメッセージ性のことなわけだが、分別がしっかりとしているから、彼らの作品は透明なのだ。いわゆる諸氏が彼らの作品にリアルさを感じるとしたら、それは<実在性のリアル>ではなく、<作品世界の説得性のリアル>なのだ。
例えば、比べるのは酷だが、前回評したタカハシマコや榎本ナリコの作品というのは、彼らに比べると果てしなく濁っているわけで、その濁りというのは、作品は社会を映し出す鏡だといった振る舞いをしたり、社会の側面を切り取っているのだとしたり顔で説教するからだ。(榎本ナリコについては後日論じます)
- 作者: きづきあきら
- 出版社/メーカー: ワニブックス
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そして、青年はいうのだ。
「『どうせ偽物なんだ』と相手に見せる痛みや苦しみを自分が感じることができなかった
人間だけがそれが本物ではなくても
相手の痛みを想像し自分の痛みを重ねて
思いやることができるはずだったのに」
作画に関して言おう。
彼らの絵柄は当時、まるで切り絵のような、版画のようなタッチで描かれていたわけだが、現在は(漫画らしくなったというべきか)普通に細い線で描かれている。
最初はこの木版画みたいな絵に違和感を覚えたが、どこか達者ではない(失礼)、若干たどたどしくも一生懸命話しかけてくるような作風に徐々に好感を抱いていった。
ぶっちゃけ、絵が達者だとか、そういう類の作家ではないだろう。
しかし、この実直すぎるような真面目さと誠意は読むものの誰の心にも届くはずだ。