東京日和/竹中直人
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というのも、『東京日和』は読んでいないから。
しかし、おいらは大学の頃から、ものすごいアラーキーのファンだった。いや、今も彼の写真は大好きなのでファンであることには違いないのだが。
それでもってちょうどその頃、折りしもHIROMIXとか蜷川実花とかが登場し、いわゆる若手の写真ブームがあった。
で、その先人として再評価されたのが荒木経惟なわけで、当時発行されていた『déjà-vu』という、これまた素晴らしい写真雑誌があって、そこでは新進気鋭の写真家たちが毎号取り上げられていた。奇しくも20号ほどで休刊してしまったが、確か飯沢耕太郎の編集だった。写真集としても優れていたので、今でもBNは手元にある。
そいで、おいらは大学で映像を専攻しており、写真も勉強していた。写真を撮る際にいつも頭にあったのはアラーキーの写真だった。
彼の写真は気を衒ったところがまるでない。故に生々しく、リアルなのだ。写真から立ち上るような空気、におい、それらを一枚の印画紙に見事に焼き付けていた。
何気ない都市の写真もアラーキーが撮れば、彼の写真だとすぐに分かる。
マン・レイやメイプルソープの写真も魅力的だが、あれらは「絵」としての完成度を誇っており、その点アラーキーはどこまでも写真なのだった。
さて前置きが長くなった。
映画は妻を失った男やもめの写真家の物語としてはじまる。ベランダのテーブルに置かれたひまわりの花。そこから彼とその妻と過ごした日々がよみがえっていく。
特に事件が起こるわけでもなく、他愛ない日常の連続がつづられていく。
時にすれちがい、言い争いになり、しかし、幸せで穏やかな2人だけの時間が流れていく。
主人公が写真家であるが故か、妻を見るまなざしが常にファインダー越しのように、近くて遠い。
分かり合えているようで分かり合えない。
そんな緊張感が常に漂っている。
主人公の視線の先にいつもいる妻。彼は彼女を激しく狂おしいほどに愛し、その切実さは痛いくらいに伝わってくる。
なぜなら、彼の視線はまさに恋をしている眼差しなのだ。妻に恋をし続ける夫。
結婚とはある意味、恋愛の終着点に見えるかもしれないが、それは違う。
相手がいつ自分から離れていくか、絶えず不安を感じつづける。それは長い長い片思いのはじまりにすぎないのだ。
相手も自分を好きだろう、----たぶん、嫌いではないはずだ。
たったそれだけの確信しかもてず、身に詰まるような相手への恋慕は、永遠に伝わらない。
もっとも側にいるのに、もっとも遠い人。それが人生の伴侶ではないだろうか。
切なくも狂おしい妻への恋をこの映画は見事に具現化している。
おいらは元来、夫婦ものというジャンルにめっぽう弱いので、不覚にも映画の最後には泣いてしまった。
あとこれは有名なので、特筆する必要はないが、念のため紹介しておく。
竹中直人の名を決定的にした『無能の人』。これも大変傑作なので、ぜひ見て欲しい。
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