天皇ごっこ/見沢知廉
- 作者: 見沢知廉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1999/07
- メディア: 文庫
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この作品は獄中で書かれ、95年に新日本文学賞を受賞した。新日本文学賞というのはあまり有名ではないが、知る人ぞ知る文学賞である。ずばり、共産党系の文芸雑誌が主宰していた文学賞である。
文体はいたって平板。これといって気を衒った表現はなく、むしろ大衆小説に近いくだけた文体で非常に読みやすかった。
第1章は88年の昭和天皇崩御の際に、大正天皇崩御の際の恩赦を期待し、政令恩赦の減刑令を待望する囚人らの生活が描かれている。
第2章は右翼テロリストが左翼活動家を刺殺する物語が語られる。
第3章は成田空港反対闘争のなかで対立しあう諸セクトが反対同盟委員長の「天皇を殺せ」の発言で奇跡の一体化を具現する様が描かれている。
第4章は精神病院の分裂病患者らの演劇で天皇を扱うことで奇跡の回復を示すも、天皇というタブーに抵触することで劇が中止に追い込まれる物語である。
第5章は三島由紀夫の流れをくむ右翼団体が北朝鮮を訪問し、よど号ハイジャックの赤軍派と邂逅し、北朝鮮にこそ天皇主義者のユートピアを垣間見る物語となっている。
解説は宮台真司(!)。宮台の言葉を借りればこの小説は、天皇をめぐるロマンチシズム文学である。
読んでみて思ったのは、天皇という実像にかどかわされる人々の悲喜こもごもといったところで、第5章は作者自身が北朝鮮に訪朝した際の体験をもとに書かれているわけだが、よど号のメンバーに邂逅するエピソードは、現在は左翼活動家(?)で元・右翼バンドの雨宮処凛が出演した映画『新しい神様』でも同じようによど号のメンバーを訪問しており、最後は一緒に肩をくんで歌う始末で、まあ、要するに極左翼と極右翼というのは根本は同じという皮肉を体現していたわけだけど、それにしてもこの小説を受賞させた新日本文学はそれなりに審美眼があったと思わざるをえない。
実際、日本人にとって天皇という存在ほどあいまいなものはなく、そのあいまいさ故に天皇制は維持されているんだなあと思う。
<初>『天皇ごっこ』見沢知廉 ★★★