このページを読む者に永遠の呪いあれ

スマフォからコメントを書き込む場合、一度PCモードで表示してください

コメントを書きこむ前に、こちらの記事に必ず目を通してください 「処刑宣告

回転扉/河野多恵子

回転扉 (1970年)

回転扉 (1970年)

端的に言うとスワッピングの話。
しかしながら、どうしてこうも河野多恵子は俗っぽくなりがちなテーマを美しい文体と緻密な構成で「純」文学に仕立て上げてしまうのだろう。


スワッピングと言っても、河野多恵子の場合は既婚女性が主人公になっている。夫婦同士で交換するというもの。夫婦ものは河野多恵子の十八番なので当然と言えば当然。


蓼喰う虫 (新潮文庫)

蓼喰う虫 (新潮文庫)

このテーマは谷崎が『蓼食う虫』でも書いているが、いかんせん谷崎のことなので消化不良気味なのだが、河野多恵子は谷崎のテーマを踏襲しながら、毎度それを上回る作品を発表しつづけているわけで、真の意味での谷崎フォロワーであり、純粋な後継者と言えるだろう。
広く谷崎が読まれているのに対して河野多恵子は読まれてなさすぎであり、本読みの人たちはもっと河野多恵子を読むべきである。
文章の巧さでいえば今現存する作家のなかで一、二を争う作家なのだ。


テーマは過激だが、小説としては実に地味である。
主人公の真子は2度目の結婚で金田と夫婦であるが、この夫がくせもので冒頭から共通の知人の既婚女性との性交渉の許しを真子に乞う。真子は大したことではないような顔で許可するが、章の最後で彼女は一人、泣くのである。
そしてこの先は河野文学の特徴なのだが、その後は真子の交友関係と日常が他愛なく語られる。しかし、この主人公夫婦が互いを干渉しない奇妙な夫婦関係であることも語られる。
最後の章で、真子は『回転扉』という劇を見に行くが、途中で知人の男性弁護士・宇津木と劇場を後にする。二人は飲み屋に入るが、そこで宇津木は金田から夫婦交換の話を持ち出されたことを真子に告白する。
それが本当か嘘か定かではないまま真子は宇津木と交渉を持つ。彼女は絶望しながら、自分たち夫婦の行く末を見る思いをする。


というのが大まかなあらすじ。
あらすじを書いてしまうと味気ないが、この主人公が素朴で普通の女性であるせいか、宇津木との交渉の場面は圧巻であり、読んでいる者をいたたまれない気分にさせる。


本の最後に戯曲『回転扉』の脚本がごっそりと掲載されている。この戯曲も実に奇妙な話で本作とあわせて読むとなんともいえない読後感を残す。


本作は70年発表だが、村上龍が同じテーマで書いても、決して本作のようには書けないだろうなと思うと40年前にこうしたテーマに取り組んだ河野多恵子に改めて脱帽してしまう。



<複>『回転扉』河野多恵子 ★★★★