世紀末鯨鯢記/久間十義
- 作者: 久間十義
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1990/03
- メディア: 単行本
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三島賞受賞ということになっているのですが、まずこの本を理解するには『白鯨』を読んでいたほうがいいということ、しかし当方、読んでいなかったためか面白さが全然理解できませんでした。
でも三島賞受賞した時は超豪華面子がほめちぎっているのです。
◆選評(抜粋)
江藤淳
今回の受賞作は、久間十義『世紀末鯨鯢記』以外にないと心に決めて家を出たが、幸い他の選考委員諸兄も同意見だったので、快心の結果となった。この長篇小説は、メルヴィルの『白鯨』を下敷きにしながら、言語と想像力に対する信念の回復を力強く語ろうとした、極めて批評的な作品である。“調査捕鯨”と反捕鯨のエコロジストとの対立を題材に選んだという着想も秀抜なもので、この作者のスケールの大きさを窺わせている。
大江健三郎
久間氏はそれらの仕掛けの発想を、リアリズム小説として充分になりたつ周到さの背景によって――調査捕鯨の実態をつうじて――しっかりと支えている。その上で、はじめに仕掛けておいた要素を念入りに組み合せることで、つまり骨おしみせず構想力による小説的な展開をおこなって、読む者に新しい世界をかいま見させるのである。(中略)こういうタイプの新作家こそを、心のどこかで期待していたようにも思う……
筒井康隆
最後に主人公は世界を容認する――つまり正気に戻るわけだが、小説としては戻った方がいいのか戻らない方がいいのか、おれにはよくわからない。(中略)この辺はどちらにしろ、珍らしく方法論を考えて書く作家の登場であって、作家の決定が正しいと思うべきなのだろう。作家の意図とは異るだろうが、おれはこの作品(「世紀末鯨鯢記」)を「虚構内存在の現存在分析」と受けとめ、やたらに面白かった。
中上健次
「世紀末鯨鯢記」難解な小説の印象は語り手の幾様もの分裂という設定をわく組にしたせいだが、普通なら致命傷になりかねない物を、手抜きせず一つ一つに丁寧に筆を使っているので、作者の想像力と読者の想像力がのびやかに広げられ、白鯨が大きな力となって現われてくる。氷に閉ざされた鯨の条りはぞくぞくするような小説を読む楽しみにとらわれるし、反捕鯨団体を救出するという条りに見る作劇のうまさは、大型新鋭としての実力の証明である。
宮本輝
久間十義氏の「世紀末鯨鯢記」は、その小説における谷間のところで、質のいい言葉と創造力による吊り橋や小道が積み重ねられた作品である。(中略)この作品における〈多重人格〉と、〈小説のなかのもうひとつの小説〉という危険な構造は、いとも簡単に、しかも酸鼻に破綻する性質のものだが、その危うさも感じさせずに、結末へと至った。小鋭の峰と峰をつなぐ、つらい谷間の底での、創造力の勝利だと私は感じた。
うーん。オイラには分からない評価ばかりだ^^。純粋にそれほど面白くなかったくらいしか感想が抱けないのだけれど。まあでもあれだ、久間氏はこういうの書いても売れないことが分かって、純文学から大衆文学へ転向したんじゃないかな。それが全てを語っている。
分析して評価するほどでもない小説だしな。
つーわけで採点。
『世紀末鯨鯢記』久間十義 ★★★
それなのに★が3つなのは、退屈ではあるけど文章はうまいので★3つ。