涼宮ハルヒの消失/谷川流
- 作者: 谷川流,いとうのいぢ
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/07
- メディア: 文庫
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過去ログを見れば分かるとおり、オイラは一貫して今まで「アンチ涼宮」を標榜していたからなんだけど。
以前に< 角川グループの陰謀 >という記事で、新エヴァが控えているから、ハルヒの二期はないんじゃないのか、なーんて書いてしまったけれど、二期の情報が事前にリークされているのを知って、なーんだ、やっぱりやるのか、とちょっとがっかりした覚えがある。
今回手を出してしまったのは、二期が『消失』中心になるというのを聞いたことと、どこかで筒井康隆が『消失』が一番面白いと言っていたのを見たから。
読んでみて思ったが、いかにも、筒井がすきそうな話だ、とまず思った。
結論から言おう。
予想以上に面白かった。だから、あっという間に読破してしまった。
あーあー、認めちゃったよ。
アニメ版は全話見ているけれど、正直、どうして騒がれるのか分からなかった。確かに作りは丁寧だし、よくできているが、1クールだし、登場人物はエヴァのパクリキャラみたいなのばかりだし、SFと呼ぶにも中途半端だし、セカイ系だしといろいろ難癖つけていた。
要するに、オタクというのは、宮崎パヤオ作品然り、作りが丁寧なら何でも誉める人種なのか、と思うほどに。
それでも、『サムディ・イン・ザ・レイン』だけはとてもいい話だったと思うけれど。
で、『憂鬱』に関してはアニメで見ていることもあったので、事実上『消失』が谷川流作品に初めて触れる機会となった。
文章はこれ、一般的に饒舌体と呼ばれる奴で、キョンのうざったいほどの語りというのは、昔から目にしてきたので、読みにくさも感じなかった。一人称ということもあるので、客観描写がない分、私小説的な要素も濃い。
内容はタイムトラベラーものに分類されるのかな。『夏への扉』を思い出した。
ここでは、粗筋に触れなくていい気がする。「はてな」界隈だったら知っている人も多いだろうし、粗筋に口出しするのは無粋な気がする。
でも、タイムトラベラーものとしてはよくできていると感心した。本書しか読んでいないので、前巻のエピソードなど、ところどころに挿入され、シリーズを読み通していない者にとっては、苦しい部分もあったけれど、主人公の「くり返し確かめる」語りのおかげで何とか補完できた。ただし、時空震の場面はあっさりしすぎていないか、と思った。一応見せ場なのだから、それなりに迫力のある描写が欲しかったところだが…
技術論的な話をすれば、描写は決して上手くない。こう言ってはなんだけど、文学青年崩れの学生小説といった趣きだ。
先に読みにくさは感じなかったと書いたけれど、語りと描写が乖離している部分が多い。よく登場する比喩表現はレベル的に本谷有希子よりやや上手い程度。*1
それでも読めてしまえるのは、ライトノベルというジャンルだからか。
いやいや、小説にジャンルの垣根など存在しない。自分は『消失』と向き合う前にラノベというジャンルの囲い込みなしに取り掛かったわけだから、技術的には下手だと思う部分も、とりあえずは読ませてしまう力量があるということだろう。
それにしても、この饒舌体は同じことを反芻したり、何度も主人公が自分に言い聞かせたり、それを確かめたりする文章が多く、実際のところ、こうした無駄を省けば、この本は1/2に縮小できるなと思ったりもした。
でも、これを支持する読者の多くが、キョンのこうした「無駄」な語りに居心地のよさを覚え、実際、自分も最初はうざったく感じた語りが徐々に慣れていき、結局は一気に読んでしまったのだから、この「癖のある文体」はなかなか侮れないと思った。
それとアニメの時にはキョンが嫌いだったけれど、小説で読んだら、好感度が上がったな。それはやはり涼宮ハルヒシリーズがキョンという一学生の目を通して語られる、客観性のない世界だからだ。しかし、アニメでは視点がゲームのプレイヤーというわけにはいかない。
アニメ化にあたって、初めて涼宮ハルヒの世界は客観描写を描き出すことになった。そこに登場する主人公と小説の主人公に齟齬が生じるのは無理もない。
『消失』が一番面白いとささやかれているのを聞くと、他のシリーズに手を出しにくいが、まあちょっと読んでみようかと思う。
最後に。
それにしても、いとうのいぢって絵が下手だなー。まともに見れるのは表紙の絵くらい。本文の挿絵に至ると落書きレベルだと思った。これって本当にいいわけ?
*1:本谷有希子のレビューはこちらを参考に。< 才能の無さに「絶望」した/『ぜつぼう』本谷有希子 >