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アメリカ版チェーホフ/『ガラスの動物園』テネシー・ウィリアムズ

ガラスの動物園 (新潮文庫)

ガラスの動物園 (新潮文庫)

テネシー・ウィリアムズは初めて読んだけど、これは一言で感想が言える。
「アメリカ版チェーホフ」。
こんなに影響受けているとは想定外でした。


欲望という名の電車』『赤いトタン屋根の猫』、当然『ガラスの動物園』も映画になっているんで、勝手に社会派だと思いこんでいたんだが、今作に限って言えば(本当にチェーホフ風の)ミニマムな室内劇だった。


テネシー・ウィリアムズ自身がチェーホフを最も尊敬している劇作家にあげているしで当然なんだが。
今作はテネシーいわく、最も自伝色要素が濃いらしく、「もう二度とこういう劇は書かない」と言ったらしい。
なるほど、読めば分かるが実体験をもとにした作者の心情風景そのままの劇と言ってもよい。


これは好きな人多そう。春樹ファンから鍵ゲーオタまでフォローしそうな切なさと透明感がある。
でも、透明感や切なさで言えばチェーホフのが上回るかな。
チェーホフも相当切ない戯曲家だが、テネシー・ウィリアムズの「切なさ」はもっと万人向けで分かりやすい。
「アメリカ人向けに分かりやすくしたチェーホフ」といった雰囲気と言えばいいかな。


登場人物はたった4人で、父親が蒸発してしまった母子家庭が舞台。
2人の子供の将来を誰よりも心配している母親アマンダ、足が悪い為自分に自信をもてない臆病でおとなしい姉ローラ、そんな母親にうんざりしながらも姉思いの息子のトム。
で、その息子が語り手。後半に息子の友人のジムが登場します。
タイトルの『ガラスの動物園』というのはローラが集めているガラス細工の動物のコレクションのこと。ローラはそれを何より大事にし、心の慰めにしている。
しかし、ローラは足が悪いため内気で臆病、人と付き合うこともできず、家に閉じこもり、会話の相手は家族だけです。
そんなローラを心配する母親は、ローラの結婚相手を早く見つけ幸せになってほしいと心から願ってる。
主人公のトムは、小説や詩や映画を愛する文学青年。トムはアマンダにせっつかれて職場の同僚である友人ジムを家に招く。しかし、しがない工場夫のジムは、かつてローラと同じ学校に通っていた学校の人気者であり、ローラの初恋の人でもあった。


これにはオチがあるんでネタバレはここまでで。
で、読んで分かった。
今作は、テネシー・ウィリアムズ姉へのラブレターなのです。


彼の実姉ローズは精神薄弱者で、テネシーは姉のことを常に心配していた。(要するにシスコンだった)
しかし、姉の夫が彼に内緒で悪名高きロボトミー手術をローズに施し、ローズはそのため完全な廃人になり、間もなく死んでしまったわけです。
そんな姉にささげる為に書いたというのが今作で、テネシーいわく「私が知っている最も心のきれいな人」=姉への思慕が結実したのが、『ガラスの動物園』であります。

いま思ったけど−−君って−−その−−ぜんぜん違うんだよね! 僕が知ってるどの女の子とも! こんなこと言っても気を悪くしない? 真面目な話、君とこうしてると−−僕は、その−−どう言ったらいいのかな! いつもならいい言葉がすぐ見つかるんだけど−−この気持ちは、どう表現したらいいのか分からない! いままで誰かにきれいだって言われたことある? そう、きれいだよ! ほかの誰とも違ったきれいさなんだ。違うから、なおさら素晴らしい。ああ、君は僕の妹だったらなあ。自信を持つことを教えてあげるんだけど。人と違っているのは、少しも恥ずかしいことじゃない。ほかの連中なんて、それほど素晴らしい人間じゃないんだからね。数だって、何十万、何百万! だけど、君という人間はたった一人だ。みんなは地球上の至るところを歩きまわってる。でも君はここにしかいない。

テネシー・ウィリアムズガラスの動物園』より

これはジムがローラに言ったセリフです。なるほど、テネシーの姉に対する思いがよく表れているではないですか。


だけど、劇の初演が確か1945年2月だかで、今話題の「硫黄島の決戦」の最中と被るんです。
父親たちの星条旗』を見ても思ったけど、当時のアメリカって今と国力に対して差がなく、硫黄島の決戦の最中も、アメリカ国民は野球観戦したり、テネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』はブロードウェイで大ヒット・ロングランだったという…
これは日本が負けるはずだ、と関係ないこと思いました。


それと以前から思っていたけどアメリカの作家は「家族や肉親」をテーマに書かせると上手い人が多い。きっと日本とは家族とのあり方が違うんだろうなって気がする。



<初>テネシー・ウイリアムズ『ガラスの動物園』(単行本)★★★1/2