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大塚英志の守りたかった文学(2)

『サイコ』文庫版の解説・レビューはこのページが参考になります▼
< complex fraction:HOBBY(大塚英志) >

西園伸二の憂鬱―多重人格探偵サイコ (角川文庫)

西園伸二の憂鬱―多重人格探偵サイコ (角川文庫)

さて『サイコ』1巻ではサブタイトルをすべて大江健三郎の著作から拝借していた大塚テンテー。過去記事▼
< 大塚英志が守りたかった文学 - このページを読む者に永遠の呪いあれ >

そして、第2巻は中上健次だった。orz
第1巻のときに大塚英志は壮大な大江健三郎フォロワーですよ、と吹聴してしまったが、中上健次もしっかりカバーしてました。大塚英志大江健三郎のフォロワーであることはまちがいないが、中上健次の引用はフォロワーというより、義理じゃなかろうか。

新現実 Vol.3 (カドカワムック (199))
大塚英志が『サブカルチャー文学論』の序章で、「そもそも自分が文芸評論に取り組むきっかけを与えてくれたのは中上健次だった、中上健次が自分に批評を書くことをすすめてくれた、そのおかげでこの本も上梓できたのだ」といったことを書いていて、『新現実』で中上健次特集を組んだことも中上を「恩人」視していると考えていいと思う。
だからか、今回の2巻のサブタイトルは全部、中上健次の著作の引用という…なるほど。

しかし、セレクトが微妙すぎ。代表作をはずしていますが、それでも小説よりエッセイ・随筆からってのはちょっと、どうよと思う。ていうか、もしかして大塚先生が読んだ中上健次ってこれだけ? と思ってしまった…ソンナマサカ

第1章 犯罪者の生成過程(序)
未読。入手困難か。聞いたところ、80年代に刊行された中上建次の全短編集に収められた短い詩ではなかったかとのことです。


第2章 硝子の城
中上健次全集〈14〉 評論・エッセイ』より。
この本には「夢の力」も含まれています。
未読。ていうか、中上は小説を中心に読んでいるのでエッセイとか読んでいません。


第3章 灰色のコカ・コーラ
中上のデビュー作。

大江健三郎から文体の影響を受けた。デビュー作は、村上龍限りなく透明に近いブルー』の先行的作品とも呼べる『灰色のコカ・コーラ』。


中上健次 - Wikipedia

ものすごく有名な作品なので、よくまあここからとったねえ、と思った。内容はWikiにあるとおり。文体は大江健三郎で、ストーリーはジャンキーの青年がらりってるだけの話。バファリンみたいな頭痛薬をばりばり食ってらりっているんだけど、頭痛薬でらりることってできるのか…と感心した記憶がある。
関係ないけど中上健次はデビュー間もない村上龍と対談したことがあって、そのときドラゴンは中上を「兄貴」呼びし、最近は手作りプリンに凝っているだの、一緒に旅行いこうよと誘ったり、超ご機嫌だったのだが(というか村上ドラゴンが一方的にはしゃいでいた)、その直後に柄谷行人との対談で中上は「村上龍ねえ、あいつとこの前飲んだけど…ハエみたいな男だな。ブーンブーン唸ってるだけで小説は下手だし、才能ないよ」とボロクソに言っていた。
……ドラゴン (´・ω・)。


第4章 水の女
十九歳の地図・蛇淫 他―中上健次選集〈11〉 (小学館文庫)』より。
これは初期〜中期に書かれた傑作短編。中上は中期以降(大江健三郎の影響から脱した後)、類稀なる才能を開花させるわけだけど、その前兆が感じられる名作です。
あらすじは…これも大分昔に読んだので詳細を忘れているのだけれど、確か対立していたやくざの愛人だった女性をひきとったチンピラの主人公が、その愛人とやりまくる話。(中上の小説はそんなんばっか)
でも、数日後に彼女の身柄を引き渡さないといけないこと、その後に娼婦として売られることを主人公は知ってるから、彼女に情を移さないようにするんだけど、そんなのは無理だよなあ、というストーリーだったかなあ。苦い余韻の残る短編だった。
関係ないけどこの短編、中上健次がオイラが現在住んでいる近所にかつて住んでいた頃書いたらしい。(あとがきで書いていたのだけど、すげえ近所でびびった記憶が)


第5章 異族
異族―中上健次選集〈2〉 (小学館文庫)』より。
これは読もうと思って読んでいないので、今度読みます。友達に言わせると池上遼一みたい、とのこと。(破綻してるし滅茶苦茶という意味らしい笑)


第6章 重力の都
岬・化粧他―中上健次選集〈12〉 (小学館文庫)』より。(『重力の都 (新潮文庫)』)
読んだかもしれないけど、中上の著作はタイトルが似通っているせいで忘れた。未読ということで。これって元ネタはピンチョンの『重力の虹〈1〉 (文学の冒険シリーズ)』じゃないか?
< 重力の虹 - Wikipedia >


第7章 破壊せよ、とアイラーは言った
破壊せよ、とアイラーは言った (集英社文庫)』。
これは現在入手困難だけど『中上健次全集〈15〉』に収録されています。これもエッセイ。読んだけど忘れた。大体、中上のエッセイなんて与太話ばっかで大したこと書いていない。小説の方が1000倍いい。
で、そもそもこのタイトルは、デュラスの『破壊しに、と彼女は言う (河出文庫)』(以前は『破壊せよ、と彼女は言った』という書名で販売されていました)から中上健次が拝借したので、大塚英志は知ってか知らぬか、孫パクになってる笑。
アイラーはジャズ・ミュージシャンのアルバート・アイラーのこと。アイラーは「破壊せよ」なんて言っていないらしいので、中上の創作だな。


第8章 夢の力
夢の力 (講談社文芸文庫)』より。
未読です。

未読が多くてレビューできないのが悲しいかな。作家のエッセイって興味がないので裏目に出ましたね。

雨宮一彦の帰還―多重人格探偵サイコ (角川文庫)

雨宮一彦の帰還―多重人格探偵サイコ (角川文庫)

3巻のサブタイトルについては、特定の作家の著作の引用ではなく、いろいろな学者・研究者の著作から拝借しているらしいのだが、それについては注釈をしているらしい。(何故、3巻だけ注釈をするんだか)

奇蹟―中上健次選集〈7〉 (小学館文庫)

奇蹟―中上健次選集〈7〉 (小学館文庫)

鳳仙花―中上健次選集〈4〉 (小学館文庫)

鳳仙花―中上健次選集〈4〉 (小学館文庫)

ついでだから中上健次についてもう少し書こう。
個人的にオススメというか実質的な最高傑作は『奇蹟』と『鳳仙花』だ。次点では、さくっと読めてオススメな『日輪の翼』と続編にあたる『讃歌』。
日輪の翼 (小学館文庫―中上健次選集)
讃歌―中上健次選集〈8〉 (小学館文庫)

紀州サーガうんちゃらという中上論のせいで倦厭されがちですが、人物相関図がアホみたいに複雑なだけで、実は単純。単なる異母兄弟姉妹がやたら多いだけ。
初心者は秋幸ものから入ってしまうので、挫折してしまうかもしれないが、正直やめた方がいい。(秋幸ものとは『岬』『枯木灘』『地の果て至上の時』という代表3部作のこと)
ここにあげた作品も紀州サーガの一部だけど、秋幸系譜とは切り離されて、単独で読めるし面白いお。

しかし、タイトルがダサい…。果てしなくダサい。いい小説ほどタイトルがダサくなる中上…これで一体何人の読者を逃しているのかという…。
中上自身、『絶望先生』のサブタイのごとく、他人の著作を借用してタイトルをつけることが多かったので、中上から引用は失敗ではないかなあ、と思うが。>サイコ

あと、中上で検索していたら「セックスなんてくそくらえ」(id:noon75)さんの文章がよかったので、紹介しておきます。

私は10年程前、中上の生原稿を見る機会に恵まれた。そのときのことをよく覚えている。書かれた日からずいぶんの時間が経過したのであろう、汚れた原稿にびっしりと、句読点も改行もない文字列が上から下、右から左へとまるで何かの記号のように刻み込まれ、私は原稿の前で呆然としてしまったのである。それは小説、というより、ゴーギャンゴッホの絵画を前にした時の観客のようであった。私は、このような原稿を書く人間は、作家として生きるほかに、どのような道も許されないだろう、と考えた。いまもそう思っている。才能とは、選ぶものではない。選ばれてしまったものである。


http://d.hatena.ne.jp/noon75/20060816/1155747645

重松清も生前の中上健次に会った時「中上健次こそ小説を書くために生まれてきた人だと感じた」と、ほぼ同じことを言ってた。
これも▼
< http://d.hatena.ne.jp/noon75/20060812/1154677458 >