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チリの地震/クライスト

チリの地震―クライスト短篇集 (河出文庫)

チリの地震―クライスト短篇集 (河出文庫)

古典主義とドイツ・ロマン派のはざまで三十四年の凄絶な生涯を終えた孤高の詩人=劇作家クライスト…。カタクリスム(天変地異)やカタストロフ(ペスト、火災、植民地暴動)を背景とした人間たちの悲劇的な物語を、完璧な文体と完璧な短篇技法叙事詩にまで高めた、待望の集成。貴重なエッセイ二篇を付し、今はじめてこの天才作家の全貌が明らかとなる。

Amazonレビューより

クライストは19世紀最高の劇作家との呼び名も高いドイツの作家です。彼の一生についてはwikiが詳しい。(しかし作品についてはほとんど触れられていないが)
クライスト - Wikipedia

後にフランツ・カフカに影響を与え(カフカに影響を与えた作家がいるのか…)、古井由吉が好きらしいとう予備知識でしか入らなかったのだが、1作読んだ時点で、その天才ぶりには驚いた。
マジでゲーテと同世代だったのかよおと思えるし、当時としては近代的過ぎて誰もついてこれなかったのではなかろうか。
しかし、クライストがいてこそ、近代文学の発展はあった気すらする、そのくらい先駆的で斬新で破格の文学者であることがよーーーーく分かりました。

先日の三島由紀夫のエントリーが厳しい評価になったのは、並行してクライストを読んでいたためで、クライストの圧倒的な悲劇世界に「世界の(?)三島」も霞ほどの印象しか残らなかったわけで…結果、あのような感想になってしまった。

しかし、クライストはクライストなだけあって「暗い」というか(……)、ナポレオン暗殺計画を一人で画策して失敗したり、ゲーテを超える大作家になれると思い込んで失敗したり、数々の挫折や不幸故のあまりに短い一生を見てもそうだが、その文体・世界からも隠蔽できずににじみ出ているそれは、間違いなく「電波」!!!! なのです。
人としてはかなりの高レベルな「電波」くんだったことがうかがい知れる。それだけでもすごい。クライストをすすめてくれた友達が「電波小説」って呼んでたけど、本当だった。「電撃」文庫ならぬ「電波」文学。(さっきからー冴えないギャグの連発ですみませんね)

だけど、電波こそ、まさにクライストをクライストたらしめているというか、電波ゆんゆん故に、猛烈なテンションの高さと、活写されるドミノ倒しのような息もつかせぬ悲劇には圧倒される。ちょっと、これと似た小説は他に思い当たらない。
たたみかける悲劇的描写の点だけでいえば、野坂昭如くらいかなー思い出すのは。でも、クライストは野坂以上にやたら文体がソリッドでアッパーなので、じっとりウエットな野坂昭如の小説とは似て非なるものになっているし。
まあ、一番近いのはアレだ。
スティーブ・エリクソンやピンチョンとか、近代アメリカ文学アッパー族かなあ。

文体は超濃厚濃縮型で、長文に複数のできごとを詰め込んでるのですが、テーマが「カタストロフィー」なだけに生かされているというか。常時、ものすごく張り詰めた緊張感の中で繰り広げられる悲劇がいっそうドラマ的になっているというか。

本書に収められている短編はいずれも天変地異、悲劇などアンハッピーな話ばかりだけど、一番よかったのは『聖ドミンゴ島の婚約』だったなあ。
これは世界観もストーリーも最高にかっこよかった。種村季弘訳だし、名訳だからこそ、またいいってこともあるのだろう。

混血の少女と恋人になった貴族の青年が裏切られたと思い込んでウンタラという(ネタバレになるので割愛)ストーリーなんだけど、うーん、かっこいい! 読んだ直後はちょっとしびれてしまった。

で、この作品を漫画にするなら、個人的には沙村広明に描いて欲しいとか余計なことを考えた。
暗い絵柄と暗い画面がマッチするんじゃないかなあ、って、沙村好きじゃないけど、彼の描く女性キャラのひどい扱いとか見てると、うまく漫画にできそうかな、と思ったり。
沙村のファンの人でも、この短編読めばその意味分かってもらえそうな気がする。

あと、本書にはエッセイが2編収められていて、そのいっぺんの『マリオネット芝居について』という人形遣いの話も面白かった。押井守が好きそうだな。
クライスト自身が知り合いの舞踏家と対話しているんだけど、その舞踏家が、いかに人間より人形のほうが魅力的かを実にフェティッシュに語っていて、狂気(つーか電波)めいていて不気味なところが面白かったです。

クライストは自分にとってムージルに並ぶ、おすすめドイツ文学になりました。



<初>ハインリヒ・フォン・クライスト『チリの地震』(文庫)★★★★1/2