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大塚英志が守りたかった文学


TINAMIX

実は「サイコ」については、ほとんど知らない。
というか大塚英志の原作漫画ってノーフォローです。
昔に「MADARA」読んで、面白いと思わなかったからなんだけど。

ところが、偶然、本屋で小説版・『多重人格探偵サイコ』を立ち読みした友達が驚愕の事実をタレこんでくれた。
以前に、ここで『さよなら絶望先生』のサブタイトルの元ネタ探しをしたけど、大塚英志はさらにそれを上回っていた。*1

何と、サブタイトルのほとんどすべて大江健三郎の既存著作から引用していたのだった!

第一章 遅れてきた青年
第二章 壊れものとしての人間
第三章 案内人
第四章 個人的な体験
第五章 洪水はわが魂に及び
第六章 生け贄男は必要か
第七章 治療塔
第八章 身がわり山羊の反撃

唖然とした…あのなー…やりすぎだよ、おっさん…。つーか、ちょっとは自分で考えれ!
ここまでくると、早晩『新しい人よ目ざめよ』『われらの時代』『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』は絶対に使ってるな。
これからは大塚英志を「アトミック・英志」とでも呼ぶかな。
「大塚・アトミック・英志は守護神」。(笑)
(元ネタ→amazon:アトミック・エイジの守護神


しかし、大江健三郎の引用であることをあとがきでは触れてない。
ま、おそらくこんなラノベ読む連中が大江なんて知っているわけねーよな、という配慮(?)だと思われる。

これで今まで大塚英志がさんざん拘泥していた「守りたい文学」って大江だったのかよ! という事実も暴露してしまったし、最近の大塚英志の左翼的な政治発言も要するに大江なんだろうなあ…。*2
*3

前から、くさいくさい、とは思っていたけど(『懐かしい年への手紙 (講談社文芸文庫)』というタイトルをやっぱりどこかで見かけたし、大塚英志の書く長文で読みにくい文章は大江に似ているし)、まさかここまで「お前もかっ!」だとは思わなかったなあ。いや、今までで見てきた大江エピゴーネンの最高クラスだ。ここまであからさまなのは初めて見ました。

オイラは中学時代に大江にはまり、そのせいでラノベが入り込む余裕もない学生時代をすごしたせいか、今の自分にとって(特に初期の)大江文学は、当時の実存的苦悩と相まって「青春文学」に成り果てているんで、大江にリスペクトしている大塚英志が、エヴァンゲリオン10年ファンみたいに見えてしまうというか(笑)。*4

しっかし、今までの人生で会ってきた自称本好きに一番多いのは、大江フリークなんだよな!
つーか、いい加減、大江健三郎のファン多すぎ。確か山本直樹も好きなんだよなあ……現役の作家をあげると、島田雅彦も、奥泉光も、大江だしなあ…。*5

だけど俺的には村上春樹村上龍大江健三郎の順で、この御三家を一番好きな作家をあげる奴って基本、本読みだと思っていない。なぜかっつとこの3人のファンってもれなく、作家の生き様とか思想とか自我の在り方とかが好きなんであって、文学そのものを愛しているわけではないから。
大江のファンはそのなかでも本を読んでいる方だけど、信者だし、他の作家は「下々の」程度にしか思ってくれねーし、突然「祈り」とか「はげまし」とか言うし。いや、最後のは俺の兄貴のことだけど… 

で、大塚英志は『サブカルチャー文学論』の大江の章で、デビュー当時に大江を大絶賛していた江藤淳が次第に批判するようになっていたことを引用し、大江が「分かりやすい」政治的作品を発表しなくなったことをくさしていたので、正直分からなかったんだ。でも、それって要するに「な、なによ! 別に大江なんて死ぬほど好きってわけじゃないんだからっ!」というツンデレだったんだな。なるほど。それで、石原チン太郎先生をすげえ嫌いなのも分かった。つーか、石原の章が一番よくできてるんだ >『サブカルチャー文学論

ついでだから、簡単に『サイコ』のサブタイを使って大江小説のレビューしますよ。(第三章だけはオリジナルじゃないかな?)

  • 第一章 遅れてきた青年 (新潮文庫)
    • 初期の傑作長編。昔に読みすぎて忘れたが。たしか学生運動に挫折していく青年の話だった。入りやすいし、どっぷりはまれます。オススメです。
  • 第四章 個人的な体験 (新潮文庫 お 9-10)
    • 中期大江の第1弾。大江光(作中ではイーヨーで登場する)の誕生によって若き大江健三郎の個人的苦悩が反映されている作品。最後は明るく終るんだけど、三島由紀夫が批判したことで有名。三島の批判は妥当だと思う。そして、この頃から大江は「希望の持てない青年の苦悩や退廃」というテーマを捨て始めます。大江自身である主人公は『空の怪物アグイー (新潮文庫)』に収録されている『不満足』の鳥(バード)という青年に置き換えられていますが、この『不満足』っていう短編がまたいーんだ。精神病院を脱走した患者を3人の少年達が夜中、探し回るっていう話なんだけど、これで大江ワールドにはまりまくった。個人的にはこの短編集が俺のその後の人生を全て変え、狂わせたと言える。ちなみに表題作の『空の怪物アグイー』は『個人的な体験』の真逆の結論を導き出し、悲壮感に満ちている。今思い出しても、泣けてくる。
  • 第七章 治療塔
    • また、マイナーなやつから引用してくるなー大塚先生は…これは後期長編の大江にしては珍しいSFものなんだけど、主人公が女性だってことに後半まで気が付かなかった。イーヨーが登場している。これも初心者向けじゃない。
  • 第八章 身がわり山羊の反撃
    • 大江健三郎小説〈8〉『河馬に噛まれる』と後期短篇』という本に収録されている後期の短編。あーこれも忘れた。多分、昔の小説をリメイクアレンジしたみたいな奴だったかな…いや、違ったかな。この辺は、初心者には絶対にオススメしない。難解な上、読みにくさ最高潮の頃の大江なので、読み終えれないと思いますし。

中上健次、、安部公房三島由紀夫など、戦後を代表する文学に内在する「ひきこもり」「萌え」「禁忌」といった要素を大塚英志が講義する、学校では決して教えてくれない戦後文学のほんとうの読み方。

初心者のための「文学」: 書籍: 大塚英志 | KADOKAWA-角川書店・角川グループ

あー、この中では中上健次がよいよ! でも、大塚英志は中上をくさすんだからなー、これだから大江フリークは…ったく。*6
腰巻に小さく「やっぱり大江健三郎は読んでおいた方がいい」とある。「やっぱり」じゃなくて、「絶対」読むべきだといわないところが、アトミック・英志・大塚先生のツンデレっぷりが見て取れます。はははははは。
あ、、だけど、大塚英志先生は大江健三郎の小説の中で匿名で(でも分かるように)悪口言われてたしな。大塚先生、報われない片思いカワイソス、なことはないか…喜ばせただけじゃないのか、単に。

関係ないけど、大江健三郎の講演は面白いんだが、本人は最悪に性格が悪いことは有名なんだよね。
大江の知り合いが言うには躁鬱が激しいらしいけど、だからって、こう、人を不愉快にさせることはするなよ、と思うことがあったんだよな。個人的に。大江の欝のせいで、当人が激しく欝ってたからさ。

*1:『さよなら絶望先生』のサブタイトル元ネタ暴き - このページを読む者に永遠の呪いあれ

*2:斎藤環ンを撃った大塚英志 - このページを読む者に永遠の呪いあれ
大塚英志ハイカルチャーに対し「サブカルチャー」という言葉を使う時点でハイカルチャーを意識しているわけで、これを逆説的に見ると大塚英志ほどハイカルチャー信仰者はいないし、真剣に文学を守りたいからライトノベルと文学の線引きをしたがるわけです。

*3:小説原稿料はなぜ高いのか? - このページを読む者に永遠の呪いあれ
この論争を簡単にまとめると、大塚の主張というのは「文壇という囲い込みの中で出版社に飼われている家畜作家どもは自己満足にすぎない小説を書いているだけ。その癖、大衆文化を見下すことだけは忘れない。お前らがどれだけ高尚だというんだ。官僚体制を保持したいだけじゃないか」と言いました。

それに対し、笙野は「お前みたいなオタク編集者あがりにそんなこと言われたくないわ。文学(文壇の間違いだと思う)はわたしが守る」と潔く啖呵だけきって、逃亡しました…。

*4:<参考>大江の本をレビューした記事:取り替え子(チェンジリング) - このページを読む者に永遠の呪いあれ

*5:<参考>よーするに、島田雅彦は単なる大江エピだっつー…左翼作家と右翼のたたかい記録:優しいサヨクと愉快な仲間たち - このページを読む者に永遠の呪いあれ

*6:<参考>新人類世代はどうして中上健次を敵視するのか?:ミスマッチ - このページを読む者に永遠の呪いあれ