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審判

審判 (新潮文庫)

審判 (新潮文庫)

村上春樹の『海辺のカフカ』を読んだ人に聞いたのだが、あの小説は全くカフカと関係ないのだそうですね。
これはモノホンのカフカです。『審判』自体はオーソン・ウェルズが映画にしています。

出だし1行目と最後の1行は本当に完璧だった。こんな出だしが書けたら、このまま死んでもいいと思えるくらい。「恥にまみれて」死ぬわけではなく。
しかし、こんな出だしをすらすらって毎回のごとく書いてしまうカフカという作家は大変に謙虚な人だったわけで、自分の小説を生涯認めたがらなかった。
不思議なものです。
世には才能もないくせにプライドばかり高く、厚顔無恥な作品を晒している人気作家が腐るほどいる一方で、天才と呼ぶに相応しい才能をもっていて、また作品も素晴らしいのに地味で(地味になるのは、その作品がハッタリがない証明なわけですが)目立たないし、またそうした地味さゆえに宣伝もされないので、一部のファンに愛されながらも、全体としてみれば埋もれてしまうわけですから、「悪人世に蔓延る」とはまさにこのことで、カフカは後者のタイプのいい典型だと思う。
現在のカフカに対する評価は、一公務員で生涯を閉じてしまった彼には足りないくらいだと思います。
で、この小説はある朝突然、何の理由もなく逮捕されてしまった銀行員の話。そして、何もわからぬまま処刑されてしまう。
彼の一連の作品は「不条理」といわれていますが、これを「不条理」とは思わない自分がここにいる。
世の中にはこうした不条理な事実はいくらでもあるわけで、この小説で主人公に降りかかった不幸は、実はわれわれにとって身近なもので、危機感を抱いて然るべき性質のものです。国家=権力の名の下では「不条理」は「筋が通って」しまうのですから。


<複>カフカ『審判』(文庫)★★★1/2