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赤頭巾ちゃん気をつけて


赤頭巾ちゃん気をつけて (中公文庫)

赤頭巾ちゃん気をつけて (中公文庫)

庄司薫ははじめて読みました。
つーか三田誠広と何ら変わらない作風かと思っていたもので、食わず嫌いだったわけです。関係ないけど昔に蓮實重彦が「三田誠広中島梓の出現は日本文壇の衰退を如実に示すものだ」というすげえ悪口を言っていたけど、『僕って何 (角川文庫)』を読んだ友達が「これ読んじゃった『僕って何』?」と言っているのを聞いて以来、三田についても食わず嫌いです。


つーか、オイラはかつて全共闘文学で、柴田翔の『されどわれらが日々 (文春文庫 し 4-1)』が、最初から十分に退屈だったが、何とかガマンしながら読みつつ、しかし、ラスト10ページで遂に投げたことがあり、それ以降、この手の文学に手を出す時はかなり慎重になっている。つーか、この手の小説は大江健三郎の初期で十分。大江を読み漁った後に読むと、申し訳ないが比較してしまうので読み進められなかった。


そこで、庄司薫
実は読んでみようと思ったのは大塚英志の『サブカルチャー文学論』で論じられていたから。しかし、そこが大塚英志
今思い返してみても、庄司薫の作品についてどれだけ批評を展開できていたかと言うと、皆無に等しかった。つーか、「この本は〜、自分にとっての青春でえ〜、すげえ思い入れがあるんだよね〜、、」つーことだけが書かれていた。
論の結びには、「この小説の主人公の薫くんは結局、幼馴染の由美ちゃんを守っていく一人の男に成長した。関係ないけど僕の女房の名も"由美"だ」(内縁の妻・『セーラー服で一晩中』の白倉由美氏のこと)という結びに、激しく萎えて('A`)ウヘァーとなったのですが、逆に喪舞さんがそこまで言うんなら、と読んでみたくなったわけです。


で、おやおや、読んでみてびっくりだ。これは、あれですね、つまり今のアメ文・翻訳調文体の先駆け文学だったんですね。ちょっと前ならJ文学と呼ばれた括りに入ってしまいかねないが、30年前の全共闘真っ只中では驚くほど斬新で新鮮で爽やかな一陣の風が…って感じの作品に映っただろうなあ。
つーか、まず最初に三田誠広柴田翔と同一視した俺が悪かった…あんた全然格が違う…_| ̄|○という気分にさせられた。


しかし、これは高橋源一郎とかまんま影響受けてますね。村上春樹も影響受けているんじゃないだろうか。
聞くところによると、庄司薫自身、サリンジャーの翻訳で有名な野崎孝文体を目指したのが本作なのだそうで、福田章二から華麗なる転身による再デビューが庄司薫だったわけです。


あらすじをかいつまむと、学生運動のせいで東大が封鎖され受験できなくなった日比谷高校の3年生の庄司薫くんが主人公。彼は表向き、不可抗力で浪人生になってしまったことを悩んでいないように見える。そんな折、彼は毎度ながら幼馴染の由美ちゃんとケンカしてしまう−−
その数日間の取るに足らない日常が綴られていくわけですが、トーンとしては完璧に『ライ麦』を意識していると思われる。


その合間に微エロなエピソードが入ってくるんだけど、これが実に上手い。
例えば、薫くんが診察所に行くエピソードで、何故か白衣の下が全裸(!)の美人女医に手当てしてもらいながら思わず乳を拝んでしまったり、幼馴染の由美ちゃんが夜のボードの上で突然「わたしの身体、変じゃない?」と幼い胸をポロっと出したり、一歩間違えるとただのエロ小説になってしまいかねない、おいしいシーンがいたるところに!
つーか、お下劣な欲望むき出しっていう作者のいやらしさは全くなく、さらっと描いているところが好感持てるというか何というか、立派な青春小説だなあ、これは!


そして、何より主人公の薫くんが嫌味がない。頭がいいし、ホールデン・コールフィールドのような愛すべきキャラになっている。結構、登場人物全員、薫くんのせいでいい奴になっているけれど。
で、ラストで友人との会話の後、街を徘徊するシーンなど秀逸で、最後の女の子とのエピソード、由美ちゃんとのシーンは実によかった。


タイトルの意味は最後に分かる仕掛けになっているけれど、なるほどと思わされて、読後に「じーん」と感動が押し寄せる、そんな暖かい作品でした。

たとえば知性というものは、結局はなにか大きな大きなやさしさみたいなもの、そしてそのやさしさを支える限りない強さみたいなものを目指していくものじゃないか…

といった薫くんの呟きが思い出され、いい話じゃああとなる。
ちなみにこの小説は4部作。一般には「赤白黒青」4部作と呼ばれているようです。
以下に列挙しておきます。


さよなら快傑黒頭巾 (中公文庫)


白鳥の歌なんか聞こえない (中公文庫)


ぼくの大好きな青髭 (中公文庫)


タイトルだけ並べると、何だかボーイズラブ小説のタイトルのようだ(笑)つーか、乙女だ…


関係ないけど庄司薫の奥さんってあの中村紘子なんだそうですが、この小説にも中村紘子さんみたいな若くて素敵な女の先生について(いまの先生はいいけれどおじいさんなんだ)優雅にショパンなど弾きながら暮らそうかなと思ったりもするわけだ。」とあり、お前は石野真子と結婚すると言って上京して本当に結婚して離婚した長渕剛か! って思った。


ちなみに、ちょっと前、生・中村紘子の演奏をジョイントコンサートで聴いたのだが、出演ぎりぎりまで遅刻してきた挙句(直前が別のリサイタルだったそうです)慌てて会場に駆けつけたって感じに登場し、何も言わずにピアノの前に座るや否や、ショパンの「革命」(練習曲 第12番 ハ短調 作品10の12)をもんのすごい勢いで弾き倒し、終った時に一言、「みなさんにも革命の波を!」と言い放ち、立ち去って行ったのを見て、すげえかっこいいおばさんだなあと思った。つーか、あんた演出上手すぎだよ…と。


<初>庄司 薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』(文庫)★★★1/2