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優しいサヨクと愉快な仲間たち


彼岸先生 (新潮文庫)

彼岸先生 (新潮文庫)

島田雅彦の小説は数こそ読んでいないのですが、一言で言えば、処女作であった『優しいサヨクのための嬉遊曲 (新潮文庫)』という小説のタイトルが示すとおりであります。
つまり、このタイトルはそのまま島田のキャッチコピーだなあ、と常々思っているわけです。


関係ないけど、野坂昭如の『てろてろ (新潮文庫)』という小説(高橋源一郎さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)』の元ネタ)があって、野坂先生が「これを書くきっかけになったのは〇〇氏(著名な人だったのだが忘れました)が『テロリストになる奴は優しいせいだ』という言葉を聞いて、『心優しきテロリスト』の小説を書きたくなった」と言っていて、非常に印象的だった。野坂先生の長編の中でも最高傑作だと思うけれど、この小説を誰よりも早く取り上げて「最も美しい小説だ」と賞賛したのは三島由紀夫。本当に、三島由紀夫は含蓄のある作家だったなあと思います。素晴らしい審美眼。

島田雅彦は「自称青2才」とか言ってて気に入っているようです。
例えば福田和也との共著。『世紀末新マンザイ―パンク右翼vs.サヨク青二才

で、久しぶりに彼の小説を読んだわけですが。非常に評価が高く、また最高傑作といわれている『彼岸先生』。
正直、この「先生」像が太宰治をモデルにしているとしか思えない。もちろん、主人公は島田本人になっている。
島田と太宰の架空対談ですかぁ? といった感じの小説でした。
それよりも、文庫版の蓮實重彦の解説が微妙すぎる。誉めたいのか、けなしたいのか、単に興味がないのか、としか思えないような解説。ちなみに、最後の手紙が主人公の書いたものというのは、いくらなんでも勘ぐりすぎな気がしますし。

で、読んでいて改めて思ったけど、何気ないフレーズとかに、サヨクらしいセリフがでてきて、それが小説の求心力となっている以上、島田は根っからのサヨクだなあと思いましたし、数多といる「勘違い」作家の中で、島田は昔から小説と言うものを推し量ることのできる優秀な作家だということも分かりました。
願わくば、もう少し面白いといいのだが。面白いことは面白いけれど、いつも何かが足りない、と感じさせられてしまうのだった。

美しい魂

美しい魂

島田と言えば、一時発禁になった『美しい魂>』があります。

理由は皇室ネタだからだそうで…確か、皇后に恋する青年の話とかウンタラカンタラ。それがどうして発禁になったのかは、未読の為不明です。本人は一連の騒動に喜んでいたらしいが。
それを言うなら丸山健二の『ときめきに死す (文春文庫)』とかはどうよ? と思うけど。殺害できずに失敗しているからいいのか。
いやもっと言えば、見沢知廉の『天皇ごっこ (新潮文庫)』はどうなんでしょうか。

ついでだから書きますが、大江健三郎の初期の山口二矢を扱った小説『政治少年死す』(これは現在も発禁。国会図書館でしか読めない)なんて、発表したせいでしばらく右翼に追い回されて、神経症になり、右翼が大嫌いになったのは有名な話。
でも、こんな文章を20代で書けたのはやっぱり大江健三郎だけだろうなあ。つーか、26歳の時に書いた小説と言うのがすごすぎる。さあ、下にある引用を声を出して読んでみませう。

「おれは小さな個々の勃起とオルガスムとを今や軽蔑していた、おれは啓示どおり、おれの全生命を賭けた大勃起、大オルガスムとにむかって精液と性エネルギーとをたくわえていたのだろう

「強いていえば、天皇の幻影が私の唯一の共犯なんです、いつも天皇の幻影に私はみちびかれます。幻影の天皇というとわかってもらえても限度があるようなので、もっと思いきって、簡単にすると、天皇が私の共犯です、私の背後関係の糸は天皇にだけつながっています

「おれは純粋天皇の、天皇陛下の胎内の広大な宇宙のような暗黒の海を、胎内の海を無意識でゼロで、いまだ生れざる者として漂っているのだから、ああ、おれの眼が黄金と薔薇色と古代紫の光で満たされる、千万ルクスの光だ、天皇よ、天皇よ!」(大江健三郎『政治少年死す』より)

本当に太字にされていることもありますが、上の太字は引用主によるもの。
別にこの一説ばかり取り立てて言うほどのものはない。何故なら、大江の初期の小説は常にこのテンションで書かれているわけで。
もっと言うと、この小説が問題視されたのは殺人を性的衝動に絡めたからですが、この頃の大江の小説のほとんどが、登場する若者は常に性に鬱屈しており、それが閉塞感と相まって綴られるのが大江文学だったわけで、この小説だけがということはなかったわけです。
中学時代に大江を読み始めたのだけれど、最初に読んだ時はあまりの熱さにぶっ飛んだ記憶がある。今だから言えるけど、相当毒があるので、思春期のガキには絶対に読ませてはいけない作家の1人です。下手すると、その後の人生設計が全て狂います。実際に、何人もいますよ、そういう人は。
ちなみに昨今流行っている「いやし」という言葉。そもそも「いやし」と言う言葉を言い出したのは大江だった。それがいつの間にか、流行語になってしまった。

で、『政治少年死す』は『セヴンティーン』の第2部として書かれた小説なんだけど、『セヴンティーン』では一人の退屈している(オナニーばっかりしている)少年が街頭宣伝をしている右翼を見て目覚めてしまう、という内容。
元ネタになった事件はこちら無限回廊」さま

実際に殺人事件がおきてしまったのは深沢七郎の『風流夢譚』。(現在も発禁)深沢七郎はこの小説のせいで、右翼から逃げる為に山に篭った。山に篭ったまま、そこで暮らした。
で、やっぱりこの小説を絶賛したのは三島由紀夫だったりして。
事件概要はこちら無限回廊」さま

最近多い、ネット右翼の皆さんは当然、これらの作品を全て読破し(あるいは国会図書館まで足を運び)、近代史を右からも左からも勉強した上で、右翼になられているかと思うので、紹介する必要もないだろーけど。
右翼になるのも、左翼になるのも本人の勝手ではありますが、一応、この程度に知った上でないと、自分を「右翼だ」「左翼だ」位置づけること自体、難しいはずなのです。

島田の小説が発禁を解かれたのは園遊会に招待されたから。先日の園遊会のことを思い出してもそうだけど、平成天皇陛下が島田を呼んだのも、発禁騒動を知っていたからに違いない。だとしたら、やっぱりすごいと思う。ちなみに、オイラは天皇が好きです。だから、やっぱり天皇を目の前にしたら普通に涙流して喜びそうなんだよね…。

で、島田雅彦はつまるところ、大江健三郎のフォロワーだとは思うんですよ。やはり。


<複>島田雅彦『彼岸先生』(文庫)★★★