台風クラブ/相米慎二
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『台風クラブ』のストーリーを紹介するのは難しく、簡単に言えば「台風の日に校舎に閉じ込められてしまった数人の中学生の一晩のバカ騒ぎ」としか言えません。起承転結はないし、事件もない。一晩のバカ騒ぎだけが主題になっています。
オープニングは学校の夜のプールではじまります。
男子生徒が一人で平泳ぎをしていると、そこへ数人の女子生徒たちが水着姿で駆けてきて、プールサイド際で踊りはじめる。
一方、野球部の少年たちは、ユニフォームを着て、寝静まった商店街を走り抜けていく……
たったこれだけで「この映画は絶対に面白い」と確信させられます。だけど、その確信の正体が何なのかはまったく分からない。
そして映画が始まると「よくわからないけれど楽しいことが起こりそうな気がする、だけど、この予感の正体がまるで分からない」、それこそがテーマであることに気づかされるのです。
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押井は『ションベンライダー』の長回しに触発され「俺も好き放題撮ってやる!」と一念発起し、できあがったのが後世に名を残す『うる星やつら・ビューティフル・ドリーマー』だったのは有名な話。そのせいで剃刀レターを送られ、「本当にいるんですね…そういう人」と話していたのも有名な話。
話がそれたので、戻そう。
相米作品の中でも、『台風クラブ』はやはり最高傑作だと思います。
工藤夕貴はこの映画でデビューしてます。当時15歳。本物の中学生です。かわいいです。今は珍しいおさげの女子中学生です。登場すぐに、ふとんの中でオナニーしてます。
『スケバン刑事』で有名になった大西結花も出演してます。大西結花は紅林茂演じる野球部の男子生徒にレイプされかけたりします。
そう、この映画が描いているのはずばり「思春期の生き急ぐような焦燥感、性への目覚め、得体の知れない不安、言葉に出来ないもやもやした感情」です。
そうしたもやもやが荒れ狂う台風の夜に中学生たちを弾けさせてしまう。
思春期の頃、誰もが抱いた「言葉にできない思い」を映像化しているわけです。それらが叙情的な場面で綴られていく。
初めて見た時、これに敵う日本映画にはもう二度と会えないのではないかと心から思いました。
何もかもが「自分好み」でした。『台風クラブ』に欲しい世界の全てがあった。
これだけ自分の「趣味」にあった映画がこの世に存在したなあ…と思うほど琴線に触れました。
だからといって、この映画が万人に届くとは思いませんでしたが、ある種の人にはたまらない映画だろうと思い、同じ感想を抱いた人は「お友達になってください」と思わず手を差し出したくなる、そのくらい思い入れ深い映画です。
現東京国際映画祭の第1回グランプリとなったこの映画を、審査員であったベルトルッチは大絶賛しましたが、彼が好きな要素がちりばめられているのですごく分かります。特に中学生たちが下着姿で、荒れ狂う夜の校庭を踊るシーンとか、ベルトルッチ的には大好きな場面なのではないかと思います。
ジム・ジャームッシュが『ミステリー・トレイン』で永瀬正敏と工藤夕貴を起用したのも、昔から相米慎二の大ファンだったから。その後に工藤夕貴が国際派女優になれたのは、言ってしまえば『台風クラブ』がきっかけでもあったわけです。
海外での熱狂的な評価とは裏腹に、『セーラー服と機関銃』以降、なかなかヒット作に恵まれず、アイドル映画監督と見なされたまま時代とともに忘れられ、2001年、相米はたった一人、病室で息を引き取りました。
追悼インタビューで工藤夕貴は『台風クラブ』のワンシーンで、夜の街を台風の雨に打たれながらワラベを歌って歩くシーンで、どう演技したらよいうか分からず、相米に訊ねたそうです。
すると相米は「思うような演技をしてごらん」と言い、工藤は自分が思う通りに演技をした。相米から「OK」が出た時、工藤は感極まって泣いてしまい、いつまでも、いつまでも、泣いていた。すると、相米は「よくやった」と工藤を抱きしめたんだそうです。
これを聞いて何だか泣けてしまいました…。
追悼の際に蓮實重彦や大友良英がメッセージを寄せています。
< 蓮實重彦 台風の夜の通過儀礼――追悼 相米慎二>
< 大友良英 細やかな周辺聴取能力 / 相米慎二によせて(文:大友良英) >
正直言うと、蓮實の文章が個人的には「う~ん」って感じでした。『台風クラブ』の世界を「通過儀礼」の一言で済ませ、相米自身を「過去の人」として語るのは、あんまりじゃないかなあと。
相米は確かにこの世にはもういない。ですが、彼の作品は現在進行形で、今見ても素晴らしい輝きを放ってる。その感動は色褪せることはない。
80年代という時代でしか通用しなかったような、そんなせまい映像言語の人ではないはずです。まあ、最近の蓮實らしい意見だなと思いましたけど。
個人的には、相米慎二の愛弟子にあたる細野監督がもっとも泣ける追悼文を書いていました。
< 師匠の一人である相米慎二監督の早すぎる死を僕は少しだけ予測していた >